発声練習について

「自宅で出来る効果的な発声練習を教えて欲しい」という質問が多いため、今回は発声練習についてお答えしたいと思います。
前回の記事で説明した呼吸法や姿勢法については、声を出さずに行うことが出来るため、場所を選ばずに練習することが可能です。

声が通らない人の特徴と改善方法について

一方、発声練習のような実際に声を出す練習となると、周囲に声が漏れてしまうため、ご近所問題などが気になりますよね。
こういった理由から、カラオケボックスに行って発声練習する方も少なくありません。
そのため、今回の記事では、「発声前に行うため息発声練習」という声のための柔軟体操的な練習を中心にお教えしたいと思います。
この練習を行うと無理なく本格的に発声練習にスムーズに入れます。
しかも、音量的には大きくてもせいぜい話声程度の音量ですので、自宅で出来てご近所の迷惑にならない一石二鳥の発声練習です。

発声練習前の準備

身体の準備が出来ていない状態でいきなり声を出そうとすると、全身が力み声帯にも負荷をかけてしまいかねません。
プロアマ問わず、多くの方に見られる現象です。
ここでは声を出すために無理の来ない「声にする前の準備体操」ともいえる方法を記載させて頂きます。
マスター後は本格的な発声練習に入れます。

ストレッチ

スポーツと同じく、準備体操をせずに練習を行うと、声帯が硬い状態で声を出すことになってしまうため、声帯を痛めてしまう可能性があります。
そのため、まずは軽くストレッチをして肩、首、顎等、上半身をほぐしていきましょう。
肩、首、顎等の部位が柔軟だと発声もスムーズになりやすいです。
もし時間に余裕があるようでしたら、肩、首、顎だけではなく全身をほぐす方が良いですが、それだと発声練習を行う度に時間が掛かってしまうため、今回は時間や労力を取られない、ごく簡単なものを紹介させて頂きます。

首のストレッチ

最初は首の前後からです。
地面を見るように頭を下げて行き、下げきったら5秒から10秒ほど静止します。

首のストレッチ

次に頭を上に上げて行きますが、上に上げる方は軽く上げる程度で良いです。
上に上げる方の静止時間は2〜5秒です。

いずれも腰に手を掛けると肩の力が抜きやすくなります。
これを2~3回繰り返します。

首のストレッチ

続いて首の横です。
頭の上に手を乗せて左右のどちらかに傾けます。
傾けきったら5秒から10秒ほど静止します。

首のストレッチ

出来ましたら、逆側についても同様に5秒から10秒ほど静止させてください。

首のストレッチ

肩のストレッチ

最後は肩です。
いずれかの腕の肘の辺りを持って横に引きます。
この時首は引いている腕と逆方向に向けると更に効果的です。

肩のストレッチ
肩のストレッチ

姿勢法

ストレッチが終わったら正しい姿勢のとり方です。
せっかくストレッチで体をほぐしても姿勢が悪いと首、肩が力みやすく喉を閉めて発声してしまう等、悪い癖をつける発声練習になりかねません。
ここでは立った状態の姿勢と、座った状態の姿勢を紹介します。

立った状態

肩の力を抜いて足を適度に開きます。
足の開き加減は任意です。体がふらつかない程度の開きがあれば結構です。

立った状態

顎を軽く引き頭を上方へ引き上げられるようなイメージで体を上に伸ばします。
自分が操り人形になって上に引っ張られるようなイメージです。
この時、顎が上がらないように注意しましょう。

顎を引く

座った状態

座った状態でも上半身は同じ状態です。
足を前方へ伸ばすと後ろにふんぞり返りやすいので、足はあまり前方へ出さずに横から見ると直角か手前よりが良いです。

座った状態

息の出入り口

続いて呼吸法についての説明に入ろうと思いますが、その前に呼吸する時に使う息の出入り口について簡単に説明したいと思います。
理由はそれぞれのブレスの長所と短所があるからです。
発声するために息を吐く時は、ハミング以外では口からとなりますが、吸う方の出入り口は鼻と口の2パターンがあります。
鼻からのブレスは埃や煙、乾燥した空気でも咳き込みにくい利点があります。
口からのブレスは一瞬で大量のブレスを取れる利点があります。
空気の悪い会場やステージなどで歌う場合は口から吸うと咳き込みやすいので、その際は鼻から吸うなど臨機応変に使い分けましょう。
最初の練習は楽で無理のないよう鼻からのブレスをお勧めしますが、鼻のコンディションが悪く詰まっている時などは口からで結構です。
ただし、口からは勢いよく入るので、最初は吸い込みすぎないように注意しましょう。

発声練習のための呼吸法

息の吸い方

色々な呼吸法がありますが、まずは横隔膜や腹筋などを柔軟にするために腹式呼吸を行います。
下の写真のように、体を前方に倒すと腹式呼吸になりやすいため、ゆっくりと息を吸ってお腹に手を当てて確認してみましょう。

横隔膜が下がって腹筋、背筋が外側に向かって広がるのでお腹が膨らみます。
筋肉は無理に動かそうとすると反発し痛めかねないですので、最初吸う量は少量が良いです。
確認出来たら体を起こしての状態でやります。
吸った時、お腹が膨らむか手を当てて確認してみましょう。
お腹が膨らんだらOKです。

息の吸い方

息の吐き方

顔、顎の力を抜き口を少し大きめに開けます。
すると口の中を空気が通過する時、空気抵抗が少ないので楽に息が吐けます。

この時どこにも力を加えないでください。
よく口をすぼめてシューと音を立てて吐く人がいますが、口の中が狭い口内に空気抵抗が生じて吐く時に力みやすいので初心者の方にはお勧め出来ません。

又、お腹で支えようと腹筋に力を入れる方がいますが、筋肉を使うのと硬直させるのは違います。
息はため息を吐くようなイメージで楽に吐いて下さい。
この時、横隔膜、腹筋、背筋などの全ての部位は必要なだけ使われています。
呼吸法の基本は寝てしまうくらい楽なものです。

ため息声発声練習

いよいよ発声に入りますが、最も無理のない、ため息発声から入ります。
発声練習といえば、よくリップロールやハミングなどを耳にするかと思いますが、これらの練習は力ませても出来てしまう練習法でもあります。
一方、今回紹介するため息発声練習については、一切力を入れる必要がありません。
我々が日常で行っているため息声は最小限の力で声帯を振動させている発声となります。
例えば仕事で疲れて家に帰ってソファーに座って「はぁ~、疲れた」とため息をつくことがありますよね。
この「はぁ~」の部分は、体が力んでいると出すことが出来ません。
むしろ体がふにゃりとなるのを抑えるのが大変なくらいで、一瞬にして全身の力が抜けます。
その理由から、このため息発声は最小限の力で声帯を振動させる最高の練習法と言えるでしょう。

ため息発声

それでは実践です。
立っても座ってでも構いませんので先の姿勢をとりましょう。
顔、顎の力を抜いて2、3秒かけてゆっくりと腹式呼吸を取り、「はぁ~」とため息まじりの声を出してみましょう。

声の高さは人それぞれですので決まっていませんので、この時音程は意識しません。
出来るだけ楽に出すことを心がけて下さい。
出す度に高さが変わっても構いません。
但し体ふにゃりとなってしまうと発声しづらいので、姿勢はある程度真っ直ぐのままでいることを意識してください。

実は普段力んで発声している人ほどため息声が苦手です。
数回繰り返して、スムーズにため息声が出るようになれば、次のステップのため息ロングトーンに入れます。

ため息ロングトーン

先ほどのため息を自然に息がなくなるまで長く伸ばしてみましょう。
ここでも声の高さについては意識せず、楽な高さで発声してください。
音程が上下したり声が掠れたり消えたりしても構いません。
むしろ力みを防ぐために無理に同じ音程でまっすぐに伸ばそうと思わないことです。
正しく出来ていれば日々に安定してきて声が自然にまっすぐに伸びてくるはずです。

以上が姿勢法、脱力法、発声法の基礎中の基礎です。
次回はため息声を実際の声にして行く方法を説明させて頂きます。
更に言葉を発する時の正しい口の作り方(母音)の説明をさせて頂ければと思っています。
順序立てて組み立てていけば確実な上達への最短コースと自負していますが、やはり文章だけではお伝え出来ることは難しく一部と感じます。
目の前に受講生がいれば、その場でお手本が示せますので、間近で見て聞いて頂ければ簡単に理解して頂けると思います。
ご関心のある方はご連絡頂けると幸いです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。